同窓生インタビュー

「Dr.634にきけ」第1回 45期 東 光邦 氏 「痔の日帰り手術とは・・・」

Dr.634にきけ
「ドクター634にきけ」は、医療関係の第一線でご活躍中の同窓生に、専門的な話をわかりやすくご説明いただくものです。
第1回は、当会医療保険委員長の東光邦さん(45期)。テーマはお悩みの諸兄も数多くいらっしゃる「痔」。その「日帰り手術」について大腸肛門外科専門医である東医師が教えてくださいます。
なお、記事についてご質問がございましたら、ページ最下部の事務局宛メールへお願いします。
※注:文中に治療患部の画像があります

痔の日帰り手術とは・・・

東肛門科胃腸科クリニック 東 光邦 氏(45期)

プロフィール
東京生まれ。1982年日本医科大学卒業。日本医科大学第2外科にて一般消化器外科、胸部外科を学ぶ。1987年より社会保険中央総合病院大腸肛門病センターにて大腸肛門疾患の研究、診療に従事、1995年より医療法人社団恵比寿光知会東肛門科胃腸科クリニック院長。
クリニックホームぺージURL:https://www.azumaclinic.com/

私は専門病院で大腸肛門病学を学び、大腸肛門外科専門医として永年大腸癌・肛門疾患などの診療に携わって参りました。その中で患者さんから痔の手術治療についての質問、日帰り手術と入院手術の違いを多く尋ねられます。そこで私の経験から日頃私が行っている痔の日帰り手術についてお話したいと思います。
日帰り手術というのは手術を行った当日自宅に戻り術後を過ごすことができるもので、以前は必ず入院手術が必要であると考えられていたような疾患も、最近では日帰りあるいは短期入院で行う場合が増えてきています。白内障手術や鼡径ヘルニア、下肢静脈瘤などその適応範囲は拡がっています。痔疾患も例外ではなく、良性の疾患であり、社会的なニーズから日帰りでの手術を希望する方も増加しています。痔核・裂肛・痔瘻など殆どの痔疾患は日帰り手術で行うことができます。私の専門とする肛門疾患・痔の日帰り手術の話をしたいと思います。

なぜ日帰り手術なのか?

日帰り手術はその適応が拡がり、従来入院で行っていたような手術でも日帰りで行う施設が増えてきています。医療技術の進歩と相まって医療経済の面からも医療費の軽減をはかることができる日帰り手術は注目されています。痔疾患での手術でも長期の入院は社会的に困難な状況にあり、できるだけ早い社会復帰をと考えるのは当然のことですが、白内障や下肢静脈瘤の日帰り手術とやや異なることは術後の痛みと術後出血の二点があげられます。術後の痛みや出血がある程度コントロールできれば良性疾患でもあり日帰りでの手術での対応にメリットがあると思われます。

日帰り手術の実際

私のクリニックで行っている日帰り手術の方法を主な痔疾患、内痔核(いわゆるいぼ痔)、裂肛(切れ痔)、痔瘻について手術写真なども含めてお話し致します。
日帰り手術を行う場合の実際の流れをみてみましょう。
まず日帰り手術の対象となるかどうかを決めなくてはいけません。次のような項目を検討します。
#1年齢 手術時の年齢は全身状態と合わせて日帰り手術の適応の判断の一つとなります。ご高齢の方は術後の転倒のリスクや通院の状況などから入院手術が勧められる場合があります。
#2基礎疾患 基礎疾患(糖尿病・狭心症・不整脈など)によっては抗血小板薬(血液をサラサラにする薬)を服用している場合などがあり、その場合入院で出血をコントロールしやすい処置をしてから手術する必要があります。
#3生活環境 年齢や術後の通院治療の事を考慮し一人住まいであるかどうかなどの生活環境も条件のひとつとして勘案しなければなりません。
また、症例の程度によっては術後の処置が必要となる事があり、外来手術より入院手術が選ばれることもあります。全ての痔疾患が外来手術の適応となる訳ではありません。

術前検査

手術に当たっては全身状態のチェックが必要となります。
手術が安全に行えるかどうかを判断するために血液検査・尿検査・心電図などの検査を行います。特に問題なければ外来での手術予定を決めていきます。

手術

外来での手術も入院で行う手術も基本的には全く同じ手術方法で行います。違いは麻酔法で術後帰宅していただくには、手術終了後早めに麻酔が切れ且つしっかりと効く方法で行うことになります。一般的には仙骨硬膜外麻酔という麻酔法で行うことが多いようです。仙骨硬膜外麻酔は尾底骨近くの仙骨に麻酔を行うと肛門周囲のみ鎮痛効果が得られ、麻酔が効いていても歩行することができる麻酔で術後1〜2時間程休んでいただければ帰宅することができます。鎮静剤なども使用しますので手術中の不安も殆ど無く手術を受けることができます。その他局所麻酔や静脈麻酔と局所麻酔の併用など施設によって麻酔の方法が工夫されております。
何れの麻酔法でも術後に帰宅して頂くことが出来るような麻酔方法になります。
代表的な痔疾患、内痔核、裂肛、痔瘻についてみてみましょう

内痔核

内痔核は肛門の歯状線上に出来る血管の豊富な瘤と考えていただければ良いと思います。ある程度の膨らみは誰にでもあり、排便習慣の問題で、脱出、痛み、出血を呈するようになります。先ずは坐剤、軟膏などを使った保存的治療を行い、それでも症状の改善が認められなければ手術適応となります。標準的な手術療法は結紮切除術という方法が行われますが注射療法なども選択される場合もあります。

1.結紮切除法

内痔核に対して一般的に行われる方法で痔核を肛門内から肛門縁の外側まで切離し、痔核を切除、更に出血を予防する為、痔核切除後の根部を結紮する方法です。最近は術後疼痛や術後早期の出血を防ぐ目的で切除した粘膜面を外側に半閉鎖する方法なども行われています。手術時間は10〜15分程です。

手術画像01

2.ALTA注射療法

痔核に対する注射療法の一つでALTA(硫酸アルミニウムカリウムタンニン酸注射液)(ジオンⓇ)という薬を痔核に注射をして痔核を硬化縮小させてしまう方法です。この方法ですと術後出血の心配はありませんから術後の生活制限は殆どありません。効果は痔核の状態によって様々で納得のいく結果が得られるかどうか不確実な場合もありますが、最近では痔核結紮切除術との併用や外痔核部分を手術的に切除し内痔核部分にALTA注射療法を行うなどしてできるだけ切除部分を少なくして積極的にALTA注射療法を行う場合もあり、痔核の日帰り手術に大いに活用されています。

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裂肛

裂肛は先ずは坐剤・軟膏・生活指導などを行い保存的に治療しますが、繰り返される場合や肛門ポリープなどができているような場合、肛門狭窄となった場合には手術を行うことがあります。

1.側方内括約筋切開術

裂肛の原因とされる肛門括約筋の過度の緊張を取るために内括約筋の一部を切離して緊張をとる方法です。肛門ポリープやスキンタグなどがある場合が殆どなので同時に切除します。

2.肛門狭窄形成術

慢性裂肛の結果肛門狭窄を来したものに対する手術法で、括約筋の一部を切開し狭窄を改善、裂肛の結果形成された肛門潰瘍や肛門ポリープなどを同時に切除するものです。この時肛門後方の切開した括約筋部分をSliding Skin Graft(皮膚弁移動術)や形成外科の手法V-Y形成術などで切除部分を形成する方法を行います。

痔瘻

一般的な痔瘻は低位筋間痔瘻といって瘻管が直線的で後方にできるものが殆どです。肛門の解剖学的特徴から場合によっては瘻管が肛門周囲に回り込むような事もあります。それぞれ肛門機能を損なわないような方法で瘻管の入り口となる原発口と出口となる二次口をふさぐような手術を行います。

1.切開開放術

瘻管が後方にある場合に行う方法で瘻管を切除し開放創とするもので、括約筋の切開範囲も大きいのですが確実に治る可能性が高くなります。膿瘍腔が大きい坐骨直腸窩痔瘻の場合でも瘻管の走行が単純な場合はこの方法を行います。
手術による肛門の損傷をできるだけ少なくする様に切開解放術に準じた方法で、な
るべく内括約筋の切開を少なくして膿瘍腔を肛門外側から切開し、原発口から繋がる瘻管を切離して括約筋の損傷を少なくするような方法なども行われています。

2.瘻管くりぬき術

瘻管が側方あるいは前方にできている場合には大きく括約筋を切開すると術後治癒創の引きつれなどで肛門が変形を来し機能が損なわれることがあるので、できるだけ括約筋の損傷を小さくする工夫をし、瘻管をくり抜くような方法が行われます。原発口側は閉鎖するようにします。この方法は開放術に比べ治癒過程で治りが悪く再発することも屡々あります。

3.シートン法

瘻管に輪ゴムを通し時間を掛けて瘻管を開放する方法です。一期的に切開開放する方法より括約筋の損傷が少なく機能が比較的保たれる利点があります。完全に解放されるまでに多少時間が掛かり数ヶ月かかることもあります。
瘻管くりぬき術と併用し、瘻管の外側部分は切除し肛門管に近い部分にシートン法を行うなど工夫することで根治性を高め括約筋の損傷も少なくする方法も行われています。
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痔瘻の形が複雑で切除範囲が大きくなるような坐骨直腸窩痔瘻の複雑な場合で術後に排便や食事の制限が必要となるような場合は日帰り手術ではなく入院手術が必要となります。

その他

尖圭コンジローマ、膿皮症といった肛門周囲にできる皮膚疾患なども日帰り手術で行うことができます。

まとめ

痔疾患の日帰り手術は技術的な進歩や工夫で以前のように長期の入院が必要となる場合は次第に減ってきています。しかし全て日帰り手術が可能というわけでは無くリスクを伴うものでもあり、患者さんの理解と医師側の状況、地域の医療状況などで事情が変わってきます。術後に痛みが強く入院が必要となったり、術後の出血で入院処置が必要となったりする場合もあります。後方支援病院などと連携がとれているかも日帰り手術を行う際の重要な要件の一つでしょう。日帰り手術のメリット、デメリットを正しく理解していただければ肛門疾患の日帰り手術は増加していくと考えられます。
本稿は日本大腸肛門病学会のホームページの一般市民向けトピックスに掲載したものを改変したものです。健康相談などにご活用いただければと思います。

以上

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