同窓生インタビュー

「Dr.634にきけ」第4回 52期 渡辺賢治氏『漢方の上手な活用法』

Dr634にきけ第4回

「ドクター634にきけ」は、医療関係の第一線でご活躍中の同窓生に、専門的な話をわかりやすくご説明いただくものです。
第4回は、渡辺賢治さん(52期)。テーマは皆様も気になる「漢方の上手な活用法」。
なお、記事についてご質問がございましたら、ページ最下部の事務局宛メールへお願いします。

漢方の上手な活用法

 

52期 渡辺賢治氏 修琴堂大塚医院

プロフィール

 1984年慶應義塾大学医学部卒業。同大医学部内科、米国スタンフォード大学遺伝学教室ポストドクトラルフェロー、北里研究所(現北里大学)東洋医学総合研究所、慶應義塾大学医学部漢方医学センター・センター長、慶應義塾大学環境情報学部教授・医学部兼担教授を経て2019年より修琴堂大塚医院・院長、横浜薬科大学学長補佐、奈良県顧問、神奈川県顧問などを兼務。

自己紹介

 専門は漢方で、四谷にある大塚医院で診療しています。先代の院長はわたしの恩師であり義父でもある大塚恭男です。武蔵22期で、有馬朗人前学園長と同期、東大の短歌の会でも共に活動していた仲です。有馬先生が大塚家に遊びに来られたときに、わたしも直接お目にかかったことがあります。
 大塚医院は1931年の開設以来、伝統的な生薬の煎じ薬を処方する漢方専門医院です。日本には「漢方医」という資格がないため、代々の院長は西洋医学の大学を卒業後、漢方を専門としています。

漢方医学とは

 そもそも漢方とは何か、という話からいたします。漢方は中国の医学と思っている方が多いのではないでしょうか? たしかに「漢」がつくので、そういう誤解は多いのですが、じつは日本独特の発展を遂げた伝統医療です。たしかに古代中国に起源を有する点は共通なのですが、中国は中医学、韓国は韓医学というように、それぞれ独自の発展を遂げてきました。WHOの伝統医学の定義でも各国の多様性・独自性を認めています。
 記録上、最初に医学が伝わったのは5世紀で、天皇の病気を治療するために新羅から医師を招聘したことが『日本書紀』に遺っています。しかしながら、漢方薬の原料である生薬は日本での入手が困難でした。奈良時代になると遣隋使によって、日本に生薬がもたらされるようになり、国内からも数多くの生薬が奈良の都に運ばれました。日本の植物で代替するものもありました。聖武天皇の時代、全国から生薬が奉納された記録もあり、この時代になると国内で原料となる植物もかなりわかってきたようです。
一方、国内では入手できないものも数多く存在し、遠くはペルシャから来たものもあります。そうした貴重な生薬が日本に入ってきたことは、東大寺の正倉院に納められた薬物で分かります。正倉院は聖武天皇が崩御後に、その遺品を収納するために光明皇后が建てたものです。「校倉造り」という建築様式で、ねずみ返しがあるため、1300年の年月を経ても宝物がそのまま残っている、いわばタイムカプセルです。
『種々薬帳』という書に、66種類の生薬リストが遺されていて、遠くから運ばれた没薬(もつやく)や乳香といったものまで納められています。光明皇后は施薬院(せやくいん)、悲田院(ひでんいん)といった、福祉施設を作り、貧困層の病気の人びとを収容して、手厚く治療しました。その際にこうした貴重な生薬も使われたのです。まさに、為政者と民が同じ生薬を使うという世界でも稀有な福祉のモデルが日本にありました。

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人を診る医療

 西洋医学はまず病気を診断し、それに基づいて治療が決定されます。内科医としては診断学が最も重要で、診断に行きつけば自ずと治療法が決まります。一方漢方は、個人差を重視する医学ですので、同じ病気でも体力のある人、ない人、暑がりの人、冷え症の人などで、漢方薬を使い分けます。これを漢方の「証(しょう)」といいます。2022年、WHOの国際疾病分類にはじめて、漢方の証を含む伝統医学の診断体系が入りました。西洋医学の病名はどんどん細分化されていくのに対し、漢方の証は人間の状態を分類する、というまったく別の体系になっています。
 人を診る医療である以上、病気は問いません。内科医であった私が漢方を始めたときに、ありとあらゆる診療科の患者さんが来院されるので、最初はとまどいました。人を診る漢方医学ではどのような疾患でも拝見しますので、希少疾患の患者さんや難治性疾患の患者さんも来院されます。漢方で歯が立たないこともしばしばですが、少しでも症状が楽になるように最善を尽くします。ですからこんな悩みで漢方を受診してもよいか、と迷っている方は一度ご相談ください。そのうえで西洋医学との連携が必要な場合には、紹介状を書いて西洋医学と漢方を併用することになります。ワンストップのかかりつけ医的存在でもあるのです。

漢方の診察手順

 漢方の診断方法は四診(ししん)と呼ばれています。望診(ぼうしん=しぐさや顔色、舌などを観察)、聞診(声色や呼吸音などを観察)、問診(通常の問診ですが、「車酔いをしやすいか」など独特の項目も)、切診(脈診、腹診など)の4つです。手順は西洋医学の診断と大きく変わりません。まず問診票に記入いただき、診察室に入ると病歴を聞かれます。ここで重要な点は、今現れている症状よりも、それが引き起こされた原因に焦点を当てて詳しく病気の経緯を聞きます。その症状がどういうときに楽になるのか、辛くなるのか、その原因としては何が考えられるかなど、一見関係なさそうなことでも連鎖して症状が出現することもあるので、その経緯を入念に聞きます。そして診察ですが、舌を見る舌診、脈を見る脈診、そして日本漢方独特の腹診を行い、これらの情報をもとに処方を決定します。舌の所見を載せますが、舌からは多くの情報が得られます。

下の様子の紹介
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漢方薬の調剤と飲み方

 漢方薬の処方箋に「葛根湯」と書くと、7つの生薬が、ある配合比で混ぜられます。葛根湯は1800年前の漢代の古典『傷寒論(しょうかんろん)』が出典で、そこにはすでに組み合わせと配合比が厳密に定められています。度量衡の違いがあるので、正確な再現とはいえませんが、1800年前の人とほぼ同じものを飲んでいます。煎じ薬の場合、1袋に入った生薬を開けて、お鍋で600ccの水を煎じ詰めて半分の300ccにします。煎じる時間は40分〜50分かかります。煎じあがった漢方薬を2回ないし3回に分けて食前30分または食後2時間以上開けてから飲みます。胃が空になった状態で飲むと吸収がよい、というのがその理由です。
 そんな煎じている時間はないよ、という人には、煎じ代行という方法があり、レトルトパックにして郵送します。旅行に行く場合はエキス剤、丸剤、カプセル剤、錠剤などもあります。
 一般的に医療機関で用いられているのがエキス製剤です。エキス製剤は生薬を煎じて、熱風をかけて乾燥させるヒートドライという方法で作成しますので、煎じ薬から作られます。持ち運びができるので便利です。

生薬箪笥、生薬の紹介
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漢方の賢い活用法

 日本では9割の臨床医が漢方を日常診療で用いている、というデータがあります。それくらいすでに医師の間で浸透しています。多くの医師が漢方薬と西洋薬を使い分けています。では、医師は西洋医学と漢方医学を、どのように使い分けたり、組み合わせているのでしょうか。
 漢方が得意とするには、機能を改善することです。血流を改善する、代謝を改善する、胃腸の動きを改善する、水分バランスを改善する、などです。たとえば糖尿病であれば、血糖を下げるのは西洋薬でよい薬が数多くあります。一方、糖尿病は血管が障害されて、網膜症、腎障害、心筋梗塞など、さまざまな合併症を引きおこします。そこで、血糖を下げる西洋薬と血流改善の漢方薬を併用すると効果的です。下記にその例をいくつか挙げます。
漢方の上手な組み合わせ
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副作用もあるので注意

漢方薬は天然の原料を用いているから、まったく安全かというと、決してそうではありません。小麦アレルギーがあるように、天然のものにも身体が反応することはよくあります。なかには薬剤性の間質性肺炎で亡くなる方もあります。その他肝機能障害などもあります。これらはアレルギー反応なので、副作用が出るかどうか個人差があり、予測がつきにくいものです。呼吸苦などに注意したり、定期的に肝機能検査をする必要があります。
 副作用のなかには、配合された生薬で大体予想がつくものもあります。甘草という生薬は漢方薬の7割に含まれているため、複数の漢方薬を飲んでいる方は要注意です。山梔子(くちなし)という生薬は、長期服用でその色素成分が、腸の静脈を閉塞して腹痛を起こすことがあります。漢方薬が処方されたら、想定される副作用について、医師・薬剤師にご確認ください。

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最善の治療は治未病

 古来漢方医学では、未病を治す「治未病」が最高の治療と考えられてきました。この考えは世界中の伝統医学に共通です。
 たとえば心筋梗塞を発症すると、「いままで健康だったのに、突然病気になった」と思うでしょう。しかし体内では心筋梗塞よりもずっと以前から、血管老化が徐々に進行して最後に心筋梗塞を起こした、というほうが正確です。
 深く潜行して進行する体内の変化を、どのようにして見つけるのでしょうか。近年、血管の硬さや血管を老化させる終末糖化産物、活性酸素などが測定できるようになっています。
 大塚医院では漢方未病外来を開始しました。これは通常の健康診断では分からない身体の変化を検知するものです。明らかな病気が発症するよりも前の段階で、漢方治療をするのが最善です。漢方未病外来を是非ともご活用ください。

関連サイト

大塚医院
 
 

漢方未病ドック
 
 

以上

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