同窓生インタビュー

「Dr.634にきけ」第2回 45期 田中徹氏 「お口のホームケアのコツ」


Dr.634にきけ第2回

「ドクター634にきけ」は、医療関係の第一線でご活躍中の同窓生に、専門的な話をわかりやすくご説明いただくものです。第2回は、当会医療保健副委員長の田中徹さん(45期)。テーマは皆様も気になる「お口のホームケアのこつ」。
なお、記事についてご質問がございましたら、ページ最下部の事務局宛メールへお願いします。
※注:文中に治療患部の画像があります

お口のホームケアのコツ

田中 徹 氏(45期) 田中歯科医院

プロフィール
東京生まれ。硬式テニス部、鉄道研究部
1978年日本大学松戸歯学部卒業 同年保存歯周病学講座助手
1991年読売新聞社読売診療所勤務
1994年三和銀行東京健康管理センター歯科診療所勤務 1998年所長
2010年- 田中歯科医院院長 田中歯科医院
住所:東京都中野区中野5-52-15 中野ブロードウェイ410 Tel:03-3387-6850

 

 

はじめに

最近はビジネス雑誌、情報誌の特集で歯科が取り上げられる機会が増えています。以前は稀に週刊誌数ページあるいは新聞の健康欄に掲載されるだけでしたので、口に関連する問題に悩んでいる人、良い歯科医院探しをしている人が多いと推測されます。今回は口の二大疾患である虫歯、歯周病を予防するためのコツをお教えします。
歯の大きさ、歯並び、および口の大きさは人によって全く異なっているうえに歯ブラシの使い方も上手な方からそうでない方まで千差万別です。そのため最適な歯ブラシの大きさ、毛の硬さ、使い方も人それぞれで異なります。通院する歯科医院を変えると前医とは異なる磨き方を指導されることもあります。
今回は歯科医院でブラッシングあるいはホームケア指導を受けたことがある基本的な知識のある方向けにホームケアのコツを紹介します。
なお、40期以前の卒期の方は、最後の方になりますが、『 2-3) 歯茎が痩せて根が見えてきた方のためのホームケアのコツ』をよく読んで頂きたいです。

はじめに歯周病について簡単に説明します。歯周病とは歯肉炎と歯周炎の総称です。歯肉炎が進行すると歯周炎になります。その違いは歯肉炎では炎症が歯茎に留まっている状態で歯を支えている顎の骨はしっかりしています。(図1、写真1、図2)

図1:健康な歯茎と顎の骨

図1:健康な歯茎

写真1:歯肉炎の歯茎:上の前歯の間の歯茎が他のところより赤くなっています、歯茎は痩せていません。

写真1:歯肉炎の歯茎と顎の骨

図2:歯肉炎の歯茎と顎の骨:歯茎だけが炎症を起こして赤くなり腫れます。

図2:歯肉炎

一方、歯周炎は歯茎の炎症が続いたため歯を支えている顎の骨が溶けて痩せてしまい(骨吸収)それに伴って歯茎も痩せている病気です。(写真2、図3)

写真2:歯周炎の歯茎:骨吸収のためその上を被っている歯茎も痩せています。

写真2:歯周炎の歯茎と顎の骨

図3:歯周炎の歯茎と顎の骨:歯茎が赤く腫れるだけではなく顎の骨(歯槽骨)が痩せています。

図3:歯周炎

初めに何故ホームケアが大切なのか説明し、次にコツを述べます。

1. ホームケアの重要性

歯科医院で虫歯の治療、歯石除去だけでなく歯の磨き方、食生活指導、所謂ホームケアを指導されたことがある方が多いと思います。とくに健康保険を使わず自由診療を受けるときに、長時間のホームケア指導に辟易した方もいらっしゃることでしょう。「パッと虫歯、歯周病を治してくれれば良い」と思った方もいるはずです。なぜホームケアが必要なのでしょうか。
それは虫歯と歯周病の治療は一般医科の治療とは大きく異なるからです。

1-1) 虫歯、歯周炎は治らない

まず皆さんに知って欲しいことがあります。それは虫歯と歯周炎は治らないということです。私も患者さんに「虫歯を治しましょうね」と言っていますが、虫歯の治療とは虫歯になった箇所をドリルで削り、その結果できた穴に金属とかセラミックの様な人工材料を埋めるか被せるかして元の形に戻すことです。転んでできた皮膚の擦り傷が元の組織と同じもので修復される場合とは大きく異なります。

写真3:歯を抜いたあとの処置1:左上小さい門歯が無いので両脇の大きい門歯と糸切り歯を削りました。

写真3:歯を抜いたあとの処置1 写真4:歯を抜いた後の処置2

歯周炎は歯の周りを取り囲んでいる顎の骨が溶けています。骨を再生する処置がありますが多量に溶けてしまった骨を元に戻すことはできません。
無くなってしまった歯と骨は元に戻らないのです。歯科医療従事者は虫歯、歯周炎の進行を止めて再発しないようにしているだけで、歯や骨を元に戻すことはできません。治らない病気はホームケアで予防するしかありません。

 

1-2) 歯肉炎治療の主治医は患者さん

一方歯肉炎はどうでしょうか。歯肉炎は歯茎に炎症が留まっている病気です(写真1、図2)。
歯肉炎の原因は歯みがきメーカーのコマーシャルでお馴染みのプラーク(歯垢)です。治療は病気の原因を除去することが目的ですから歯肉炎の場合、毎日のブラッシングでプラークを取り除き口の中をプラークフリーの状態にすればよいのです。写真5はホームケア指導前、写真6はホームケア指導4週間後です。大きい歯石を取った後に歯ブラシの使い方指導と食生活指導だけで、歯の根元で腫れて赤味を帯びていた歯茎が平らになり赤味もなくなりました。

写真5:ホームケア指導前 写真6:ホームケア指導後

このときの歯科医療従事者の役割は、プラークが付いている場所を患者さんに把握してもらい清掃の仕方を指導することと歯石を取り(スケーリング)歯茎の炎症が収まりやすい環境づくりをすることです。歯周病菌が悪さをしない環境づくりと指導をするだけです。歯科医師、歯科衛生士は歯肉炎を治すお手伝いしかできません。
患者さんが自分自身で治す病気(患者さんが主治医)が歯肉炎です。
但し、口中のプラークを完璧に取り除ける人はいないので、歯科医院で患者さんが取り残したプラークを歯石と共に定期的に清掃する必要があります。
ホームケアが重要である理由がお判りいただけたでしょうか。

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2.ホームケアのコツ

ブラッシング法、使用歯ブラシ及び各人ごとの歯の大きさ等に左右されないコツを紹介しましょう。

2-1)ブラッシングのコツ
a)小道具で歯と歯の間のプラークを掃除する

ホームケアに使用する道具は歯ブラシだけでなく写真のように補助清掃用具と呼ばれる小道具や洗口剤がたくさんあります。これらすべてを使う必要はありませんが歯ブラシを使うだけでは必ず虫歯、歯周病にかかります。落とせるプラークの割合は歯ブラシだけでは60%ですがフロスも使用すると86%という報告もあります。
補助清掃用具は主に歯ブラシの毛先が届かない歯と歯の間に使います。狭いスペースですので動かし方はある程度限定されますが、必ず歯科医院で用具の選び方、使用方法の指導を受けてください。(写真7)

写真7:補助清掃用具:上から舌ブラシ、糸ようじ、デンタルフロス、歯間ブラシ直、歯間ブラシ曲、ワンタフトブラシ。

写真7:補助清掃用具

b) 食後すぐにブラッシング

30分経ってからではありません。食事が終わると同時に唾液の量は減りエナメル質は浸食(脱灰)され始めます。ブラッシングできないときは口の中の食べかす(プラークではありません)つまり発酵性糖質をできるだけ早く出すために水あるいはお茶でうがいをして下さい。
「ウイルスを洗い出す毒出しうがいのやり方」等でネット検索すると詳しい動画があります。

キシリトール入りのガムやPOs-Ca(グリコ)を噛むことも効果があります。(写真8)

写真8:緑茶エキスが未配合のPOs-Caが一般の商店、通販で購入できます。

写真8:緑茶エキスが未配合のPOs-Ca
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c) 磨く順番を決める

順番を決めずに磨くとうっかりして磨かない歯が生じてしまうことがあります。どのような順番で磨いても良いです。例えば「右上奥歯の外側から始めて、前歯を経由して左側の奥歯外側まで磨き終わったら、左側内側から右側内側、その後右下外側・・・」という具合です。(図4)

図4:図の順番に拘らずに好きな順番で磨いてください。

図4:図の順番に拘らずに好きな順番で磨いてください。

d) 「なんとなく」ブラッシングしない

磨く順番を決めたらブラッシング開始です。このとき注意することは、「奥歯の外側を磨こう」、「前歯の内側を磨こう」というような大雑把な感じではなく、例えば「下の一番奥の歯の外側にブラシの毛先が当たっているな」という様に歯ブラシの毛先がどこの歯のどの面に触れているか意識して磨くのがコツです。歯に当たっている毛先がその歯から大きく離れないように歯ブラシを動かします。磨き残しが少なくなるだけではなく歯ブラシの動きが小さくなり、歯ブラシで歯を削ってしまう可能性が低くなります。(写真9)

写真9:「奥歯2本の根元に当たっているな」、「噛む面に近いところにあたっているな」毛先がどこに当たっているか意識する。

写真9:歯磨きの注意点

e) ながらブラッシング

丁寧に隅々まで磨くとかなり時間が掛かります。洗面所で立ったままですと疲れますし、場所を独占すると家族に嫌われます。行儀は悪いですがテレビやYouTubeを見ながら、湯舟に浸かりながら等「ながらブラッシング」をお勧めします。(写真10)

写真10:行儀は悪いですがお薦めします。強く握らないでペンを持つように軽く歯ブラシを持ちます。

写真10:歯ブラシの持ち方
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f) 歯ブラシの柄は口のほぼ正面から出てくる

毛先を効率良く最大面積で歯に当たるためには、歯の並び方と並行に毛先を当てる必要があります。上下左右の奥歯内側を磨くときは歯ブラシの柄は顔のほぼ正面にきます。そして上の奥歯を磨くときは上の門歯近く、下の奥歯のときは下の門歯近くに柄が出てきます。(写真11、12、13)

写真11:下の歯を噛む面から見た写真です。毛先が奥歯2本にピッタリ当たり効率良く磨けます。

写真11:下の歯を噛む面から見た写真

写真12 ,13:ブラッシング方法例

前歯の裏側、歯と歯の間、或いはいちばん奥の歯の喉に面している処を磨くときの様に意識して縦や斜めに歯ブラシを使うときはこの限りではありません。
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g) 歯ブラシの買い替え時期

毛先が開いてきたら新しい歯ブラシに交換します。
歯ブラシの毛が植毛されている反対側から柄を見て毛先がヘッドから少しはみ出ている様になったら交換です。一日に2回使う場合3週間から4週間くらいで交換時期となります。(写真14、15)

写真14,15:歯ブラシ交換時期の見方

但し、ライオン株式会社のシステマのように毛先が細くなっている歯ブラシは、横から見て細くなっている毛先が曲がってきたときが交換時期です。(写真16)

写真16:毛先が細くなっている歯ブラシです。赤色矢印の毛先が広がっています。柄の裏側から見ても広がった毛先は見えません。

写真16:歯ブラシ交換時期の見方3

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h) 歯磨きペースト(歯磨剤)

歯ブラシに沢山付けて下さい。すべての歯にペーストを拡げてから磨き始めます。
50期以前の方は「歯磨きペーストを付けないで磨きましょう」と指導された経験があるでしょう。しかし今は「歯磨きペーストを2cmくらい付けて磨きましょう」です。(写真17)

写真17:たっぷりと載せます。

写真17:歯磨き粉はたっぷり

昔は歯磨きペーストのミント味などで口の中がスッキリして磨いた気分になる、研磨剤で歯が削れる、あるいは磨いているときに泡が沢山生じて長時間磨けないために「歯磨きペーストを付けないで」という指導をしていました。今は成分として入っているフッ素で虫歯になりづらくしようという考えに変わりました。ジェルタイプの歯磨剤の中には泡が余り立たないものがあります。研磨剤含有量も少なくなっています。
日本で市販されている歯磨きペーストの最大フッ素含有量は1450ppm ですが、海外には含有量5000ppmのものがあります。(写真18)

写真18:日本ではフッ素濃度1500ppm以下のものだけが承認販売されています。

写真18:歯磨き粉(例)

含有量が多いほど虫歯予防効果が大です。注意して頂きたいのは、6歳未満のお子さんには1000ppmを超える歯磨剤の使用は控えることです。歯の形成に問題を生じるリスクがあります。
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i) 口をゆすがない

できるだけ薬効成分を流さないようにするために「ゆすがない」あるいは歯磨剤を吐き出さずに少量の水(10ml程度)で一回だけゆすぎます。2時間は飲食しないようにしましょう。
しっかりゆすぎたい方は2回磨きをお勧めします。いつも通り磨いてしっかりゆすいだあとに、フッ素入りの歯磨剤で磨きゆすがないで終わりにします。

j) 血が出たらいつもより丁寧に磨く

歯ブラシに血が付いた、ゆすいだら血が混じっていた。一大事です。歯茎に傷がついて出血したのではありません。歯茎と歯の間に溜まっていた血が出たのです。丁寧にブラッシングしてプラークを取り除く必要があります。プラークが存在すると出血は収まりません。すぐに歯科医院の約束をとってください。(写真19)

写真19:右下前歯。歯茎はそれほど赤くないですが炎症が起きていることがわかります。

写真19:右下前歯 炎症

k) 取り外し式部分入れ歯のブラッシング

部分入れ歯を清掃するときは入れ歯専用のブラシを使って清掃します。(写真20)

写真20:水色ブラシは白色ブラシより硬く先が尖るように配列されているのでバネの内側等の清掃に使います。

写真20:入れ歯用ブラシ

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(1) 金属のバネの内側も磨く

歯をどんなに綺麗に磨いても金属のバネの内側にプラークが残っていると入れ歯を口に戻したときにそのプラークが歯に接触します。丁寧にバネの内側も磨いて下さい。(写真21、22)
写真21:部分入れ歯 写真22:入れ歯の磨き方

 

(2) 入れ歯の持ち方

入れ歯を手のひらに乗せ、できればシンクに水を張って落としても破損しないようにします。指で持つとブラシがバネに引っかかったときに入れ歯を落とす可能性があります。(動画 部分入れ歯の磨き方)

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2-2) 食生活のコツ
a) すっぱい食べ物に要注意

エナメル質はpH5.5で溶けてくる(脱灰)と言われています。別表を参考にして酸性が強い食物を毎日連続して食べることがないようにします。指が黄色くなるまでみかんを食べるようなことは危険です。たまに食べるのであれば食後のブラッシングをすれば問題は生じません。(表1)
表1

b) 「健康食品」「保健機能食品」は要注意

いわゆる健康食品、保健機能食品を食べた後にブラッシングをしない方がいます。体には良くても糖分、乳酸菌等の歯に悪影響を及ぼすものも含有されています。ふつうの食品と同様に食べた後は歯磨きが必要です。私の診療所では黒酢、ヨーグルト等を摂取後ブラッシングしなかった人に虫歯がひじょうに増えました。
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2-3)歯茎が痩せて根が見えてきた方のためのホームケアのコツ

40期以前の世代になると虫歯菌、歯周病菌が悪さをしやすい環境になります。その環境とは以下のとおりです。

 

    •  老化と薬の副作用により唾液の量が減る。
    •  歯茎が痩せて歯の根が露出する。(写真2)
    写真2クリックで大きな表示
    写真2クリックで大きな表示(別画面)
      •  老化、病気等でブラッシングが上手くできない。

     

    唾液には口の中を洗いきれいにする洗浄作用、細菌が入ってくるのを防ぐ抗菌作用、口の中を中和してくれる緩衝作用、虫歯を防ぐ抗脱灰作用があり、量が減ると虫歯予防効果が下がります。
    歯茎が痩せると豊隆のある歯に続いた細く括れた根が露出し磨きづらくなるだけでなく磨く面積も増えます。露出した根(象牙質)は酸に弱くpH6.2 程度で溶けると言われています。砂糖だけでなくブドウ糖、果糖、でんぷんに対しても弱くなります。(表2)エナメル質の脱灰はpH5.5以下で生じるといわれていますので、酸に対して根(象牙質)はエナメル質の五分の1の抵抗力となります。
    表2

    病気や老化で手も徐々に思うように動かすことができなくなります。電動歯ブラシの使用も解決方法の一つですが普通の歯ブラシより重量があるので全ての人にお勧めできる解決策ではありません。ブラッシングの介助が唯一の解決策の場合もあります。

    このような環境変化を考えると高齢者のブラッシングの一日合計時間は若い頃の2倍3倍になります。しかしそれでも悪玉菌に対抗できないのでフッ化物を使うことをお勧めします。
    その方法は以下のとおりです。

    a) 歯科医院でフッ化物を塗布する

    まず高濃度(9000ppm)のフッ化ナトリウムを3カ月に一回塗布してもらいます。口の状況によって国民健康保険診療で行える場合と自由診療になる場合があります。

    b) 自宅でフッ化物を補充する

    歯科医院でフッ化物を塗布してもらっても1週間もすると効果がなくなってしまうので、フッ化物配合歯磨きペースト(1450ppm)と250ppmから900ppmのフッ化物配合洗口剤を毎日併用すると根(象牙質)が硬くなり虫歯を防ぐ効果が高くなります。(写真23、24)

    写真23:1450ppmフッ化物配合の歯磨きペースト(例)写真24:洗口液(例)フッ素450PPM

    おわりに

    虫歯、歯周病予防は口の中にプラークが無い状態をできるだけ長時間維持して悪玉菌が活発にならないようにすることが基本です。
    今回は私が日々の診療で患者さんに説明していることをまとめました。できるだけ簡潔で実践的な内容にするため科学的根拠の説明などは不十分ですが「自ら調べ自ら考える力」で対応してくださる様お願いいたします。
    健康は健口から始まります。皆さまの健康向上に役立てて頂けると幸いです。

    以上
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以上

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